続・てるてる日記

石井てる美です。ワタナベエンターテインメント所属のピン芸人。てるてるB面。

あるお笑い凡人の独り言(続)

奇跡的に、昨日のつづきです。

昨日アップしてからタイトルの「お笑い凡人」ってなんだよと思いました。たぶん「凡人芸人」(天才芸人と対比して?)って書きたかったんだと思いますが、そのままにしておきます。



さて、会社を辞めてそれまでの人生で"積み上げてきたもの"の全てを捨てる覚悟で2009年10月に入ったお笑い養成所ですが、早くも2010年の年が明けないうちには「自分はどうやらこれ苦手だな」ということに気づいてしまいました。

「それくらいどうして養成所入る前に気づかなかったの!?」と思わず突っ込みたくなりますが、私はいのしし年生まれなためか、チャレンジ好きな母に似たためか、生来計画性が無く向こう見ずで猪突猛進な人間です。頭であれこれ考えるより先に行動してしまうんです。どれだけ頭の中であーだこーだ考えを巡らしても、結局はやってみなきゃ分からないことの方が多いし、やらないと気が済まないし自分の中で納得できないんです。そうやって生きてきて、それまでの人生も特に困ったことが無かったし、そのおかげで「やらない後悔」という一番たちの悪い後悔はしないでこれました。このときも「ああ、才能無いんだなぁ」ということはひしひしと感じましたが、「こんなんだったら最初からやめておけばよかった」とは一切思いませんでした。自分としては、ずっと夢のままで終わるであろうと思っていたお笑いの世界に実際に挑戦できたことやその上で心底納得いく感覚を掴めたことは、とてもとても大きな人生の収穫であり、人生の「やらない後悔」をひとつ潰すことができた経験でもありました。


ちょっと話が逸れますが、いわゆる人生観みたいなものが変わったのもこのタイミングでした。自分は勉強をさせてもらえる家庭に運よく生まれ、中高時代も学習環境や友人に恵まれ、いろんな運が重なって東大に入ることができました。そもそもこの世界の中でも比較的安全で豊かな日本に生まれたこと自体が幸運です。東大に入ってからも、研究室や先生や友人に恵まれ、運が重なってマッキンゼーに入社できました。自分の努力ってものも無くはないかもしれませんが、それもあくまで諸環境に恵まれた上での努力という意味では微々たるものだし、そう考えると自分の積み上げてきた張りぼての"きゃりあ"はほとんどが運や環境にもたらされたに過ぎないものだったと、離れた視点から認識することができました。
そして、自分が裸一貫で勝負しなくてはならないとき、具体的に言うと肩書きも学歴も何も無くなったとき、自分には本当に何も無いんだな、目の前の知らない人ひとりを喜ばせることもできないんだな、ということを心の底がえぐられるように分かったのがこの時期です。自分がそれまでいかに「東大の学生です」「マッキンゼーに勤めています」という"肩書き"でアイデンティティーを保てていたのか、恥ずかしながら人生でこのときまで気づいていませんでした。そういう肩書き、つまりはほとんどが自分の力ではなく運や環境によってたまたまもたらされたに過ぎない肩書き、を持つことで自分はちょっと特別だみたいな勘違いを恥ずかしながらしていたことも、認めざるを得ません。
そして、どんな職業であろうと、その人自身の力で誰かを少しでも幸せにできることがどれだけ尊いかということを知りました。こんな歳になるまで、こんな当たり前の真理に気付けなかったというのは、お恥ずかしいことですし、いかに狭い世界で狭い視野になって生きてきたかがよく分かります。入学したころに養成所の先生に一度「君はまず何者でもないことを知りなさい」と言われたことがあり、最初はなんのことだか分かりませんでした。その後、それまで運によってもたらされていた世間的にわりと高価値の肩書きが外れ、丸腰で勝負しなくてはならない世界で自分の非力さをこれでもかというほど思い知らされて、その言葉の真意が私なりに分かった気がしました。このことは以前講演会で学生さんにも話したことがありますが、やはり「自分が何者でもない」ことを知らないと(=自分を正しく知らないと)、謙虚に正しい努力ができないと思うのです。なので、年齢的には27歳になる頃なので遅いかもしれませんが、それまで生きていた狭い世界を脱出したことで、人生ですごく大事なことにやっと気づくことができました。危うく、自分は何もできないくせに一生「エリートづら」して勘違いして人生を終えるところでした。


さて、話を本筋に戻しますが、それまでの人生で一番勇気を振り絞ってお笑い養成所に入ったおかげで、漠然と憧れていたお笑い芸人という職業がどうやら苦手そうだということを心から知ることができました。なので、お笑い養成所を卒業したときには、芸能界のような夢の世界はあきらめて、私が「現実世界」とか「堅気の世界」とか呼んでいる、養成所入学以前まで生きていた世界に戻ろうということは当然考えたことがあります。20代のうちならまだ転職もしやすい、戻るなら傷が浅いうちに、などと思っていました。

一方で、お笑い養成所に入るくらいですから、私だってそもそもは自分のことが面白いと思って入ったわけです。はい。お笑い芸人になる誰もが、そういうなんらかの原体験を抱えて、芸人への夢を抱き始めるものだと思います。私は正直言って、東大でもマッキンゼーでも自分が一番面白いと本気で思っていました。東大とマッキンゼーという、いま客観的に見ればなんて偏ったクラスタ内での一番なんだろう…というのはさておき。ではその「あきらめる」というのは、「面白いと思う自分」を120%発揮したうえでの判断なのか、と言われるとノーでした。

事務所の先輩ハライチさんのお言葉で、よく養成所の生徒募集のサイトやパンフレットに載っている言葉があります。

この業界は続けていくことが大切だと思います。でも、お笑いを諦めるのも悪いことだとは思っていません。ただ、自分に潜在している面白さを限界まで出し切ってください。それでもダメなら止めればいいんじゃないでしょうか。限界まで出し切るためには、結局限界まで頑張るしかないと思いますが、いざというときに相談すればWCSにはヒントやアドバイスをたくさんの方がくれます。

WCSとは私がここでお笑い養成所と呼んでいるワタナベコメディスクールのことです。

というわけで、本当にこの言葉のとおりでして、「自分に潜在している面白さを限界まで出し切る」ことをしないと、あきらめるにあきらめられないのです。それをせずに早々と見切りをつけるのは違うんじゃないか、私だって自分が面白いと思う120%の自分を表現して、それでも全然人を笑わせることができなければあきらめもつくけど、そうでないのならば、まずは120%の表現を探すことに専心しよう、と思うようになり、養成所を卒業してから早いもので2年以上が経ちました。私は養成所を卒業した頃には120%どころか5%も「自分の思う面白さ」を表現できていなかったと思います。お笑い迷子に陥って、むしろマイナスなんじゃないかというネタすらやったこともあります。そんな激しいお笑い劣等生でしたが、「まだ自分にもできることがあるはずだ」と信じて、養成所を卒業してもチャレンジを続ける道を選びました。「とにかく続けることが大事」と言われるこの世界ですが、その言葉どおり、あんなに早い段階で芸人の自分を見限らなくて本当によかったと今となっては心から思うのです。

正直「苦手」なことには変わりないので、どうしても人よりは時間もかかるし精神的にもだいぶ遠回りしているように思います。よく見聞きする「人は得意分野でしか勝てない」という言葉から考えたら、すごく非効率なことをしているし、まるでマッキンゼー的ではありません。ただ、ここまで来たら120%を目指すしかないし、120%が心底達成できたときには、何かが変わると信じてやっています。そして、現時点では、自分でももちろん120%にはまだまだ届いていないとは思うものの、以前よりはだいぶ近づいているとは思っていて、実際にかつて「自分は一生手が届かないだろうな」と本気で思っていたBATTLEという事務所ライブにも出られるようになりました。「この先いい意味で何があるか分からない。やればやるだけ、ゆっくりだけどもじりじりと限界を押し広げることができる。絶対にムリと思っていたものも形になっていく。120%にまた0.1%近づく…」そんな感じでやっています。そして見ている人が笑ってくれる…この感覚はもう、何にも勝る喜びなのです。



また気が向いたらこういうの書きます。タイトル候補は
「友人との会話中にも!?お笑い芸人特有の試練」
「どうして東大出身の芸人は東大出身のニートより少ないか」
などとなっております。


明日は中野でライブです!




☆告知☆


4月21日(日)「笑いの苺」
開場18:45/開演19:00、場所はなかの芸能小劇場(地図)、チケットは1,000円の女性芸人オンリーのお笑いライブです!


4月24日(水)「勝手にネタバトル」
開場18:45/開演19:00、場所はなかのZERO視聴覚ホール(地図)、入場料は100円から(お客様が決めるシステム)です!


4月24日(水) 25:29〜25:59 MBSカンニング竹山のゼニウスの夜」
1年以上お世話になった銭ナールシリーズ、ついに最終回です。。寂しいなぁ。


5月4日(土)「日替わりランチvol.3」
開場13:40/開演14:00、場所はなかの芸能小劇場(地図)、チケットは1,000円です!


5月12日(日)「ワタナベエンターテインメントライブ BATTLE! part2」
開場15:30/開演16:00、場所は表参道GROUND(地図)、チケットは一般発売が4月20日(土)10:00からで、ローソンにてローソンチケットLコード:38872でお買い求めください!出演予定はこちら→ロッチ(MC)/夜ふかしの会/ケチン・ダ・コチン/あばれる君/マザー/あめん/しんのすけとシャン/双津ミッツ/イヌコネクション/ツートンカラー/あかいらか/シリフリ/短足時代です。詳細はこちらをどうぞ!


5月16日(木)「ワタナベコメディスクール11期ライブ 1×1(イチイチ) 〜事務所に推されている人から推されていない人まで全員集合スペシャル〜」
開場18:30/開演19:00、場所は新宿ハイジアV-1(地図)、入場料は500円です!なんてタイトルw



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・キャリアインタビューサイト"MY CHOICE"
・クリエイターと読者とつなぐサイト"cakes"
・社会と中高生を繋ぐことで夢の発見・追求を支援するサイト"FirstStep"



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